Kindle本が私たちの生活を変える ―電子書籍と読者、そして書き手の未来

最近タブレット端末を使うようになったことで、電子書籍の便利さに気づいた。電子書籍によって読書習慣や生活が変わり、自らも電子書籍を出版することに。コロナ禍を経て変わっていく出版業界に電子書籍がどう関わるのか考えを記す。

タブレットを使い始めたことで生活が変わり始めた

私はもともと完全在宅で働いていたので、最近までタブレットなどの持ち運び可能な小さめの端末に興味を持ったことがなかった。Kindle本もPC画面で読めば事足りると思っていた。

けれど、つい数ヶ月前に「自律神経調整のために居間で手軽にヨガ動画を見ながらヨガをしたい」という理由でタブレットを使うようになった。ついでのようにそのタブレットにKindleアプリを入れたことで、想像もしなかったことだが、大きく生活が変わっていった。

電子書籍がこんなに便利なものだとは思わなかった。手軽に持ち運べるタブレット端末で読むようになって、自分は今までこんな快適な習慣を知らずに損をしていたと思った。

Kindleで読書習慣が変わった

電子書籍では、フォントの種類も大きさも背景の色も好きに変えられる。端末ひとつ以上の重さや嵩をとることがない。めくったまま固定しておきたいページが閉じてきてしまうこともない。読みたいと思った瞬間に購入し、その場で読み始められる。届くまで待つ必要も、このご時世、宅配の人と自分を互いにリスクにさらす必要もない。流通に負担をかける必要も、本自体や梱包に使う地球資源を使ってしまう必要もない。

良いと思った作品を手軽に家族と共有することができない、またいったん購入したら古本として売ることができない、Kindle化されている本ばかりではないのが不便なところ。装丁や紙質も含めたモノとしての美しさを楽しむこともできない。けれど、特に気軽にパラパラと見るようにして読みたい本や資料的な本なら、電子書籍の形態で手に入れるのが最も便利だと思う。

私はタブレットにKindleアプリを導入してから、気になりつつも嵩張るからと躊躇していたコミックやエクササイズ本、神経や筋肉の事典などをどんどん買った。おかげで余暇時間も仕事の資料集めも断然充実してはかどるようになった。

「紙の本の限界」に初めて気づく

しばらくKindle本に触れてみたあと試しに紙の本を開いてみて突然気づいた。私は「難しい本が苦手」だと思っていたが、私が苦手だったのは「細かくて読みにくい字」「大きく分厚くて重たい本」だったのだ。

気づいたときには驚いて、試しに適当なKindle本を開いてフォントを大きくしたり小さくしたりしてみたが、フォントを小さくしたり自分にとって読みづらい種類にしたりすると途端に画面から圧迫感のようなものを感じるようになって読み進める意欲が削がれることがわかった。

つまり私は、紙の本という体裁が不可避的に持っている限界に左右されて、読めるかもしれない本を読まずにきたのだ。これは衝撃だった。

本棚の整理を開始

私はなんだか俄然やる気が出てしまって、本棚の大々的な整理を開始した。仕事で「可能性はそう高くないけどもしかすると参照することもあるかもしれないから」と取ってある比較的新しい本を、Amazonで検索してはKindle版が出ていないか探した。

Kindle版が出ていれば、万一必要になったときにはKindleでまた買えばいいから手放せる。Kindle版が出ていなくても、将来自炊して自分で電子書籍化する手間とデータ量を想像してみて「そこまでして持っておくほど貴重な本ではない」と感じたら手放す。

パンパンになっていた本棚には2割程度の余裕ができた。合計で1万円ぐらい儲けたと思う。Kindle版がなく、かつ貴重そうな本についてはとりあえず本棚に置いておいて、収入に余裕ができたときに自炊の環境を整えてどんどん電子書籍化するつもりだ。

おそらく最終的に私の本棚に残るのは、装丁や書き込みなども含めてモノとしても非常に思い入れの深いもの、古すぎて自炊が難しいもの、古書として価値が高そうなものだけになるだろう。

そうだ、電子書籍を出そう

ここで私はさらにやる気を出して、「では自分も電子書籍を出そうではないか」と思った。

デビュー作である『#発達系女子 の明るい人生計画』は版元との契約の関係で自分の独断で電子書籍化することはできないのだが、初めから個人で出版するのであれば話は違う。

ちょうど手元に、もともと紙の本で出すつもりで書き上げていた小説の原稿があった。コロナ禍の影響で入稿直前になって話がぽしゃってしまい、塩漬けになっていたものだ。せっかく書き上げたものに日の目を見せないのは可哀想だからなんとかしたいと思っていたのもあり、これをKindle本として出そうと思った。

自力での校正の日々が始まった。もともと版元との兼ね合いでWordで作っていたファイルをPDFにして、タブレットのKindle端末にメール添付で送っては、PCで開いたWordの元ファイルと照らし合わせながら読む。読みながらどんどん直接にWordに変更を加えていく。

これは、一度版元との紙のゲラでの校正を経験した私には呆気にとられるほど手軽なものだった。校正さんが校正してくれたものがメール添付で返ってくるのを週単位で待ち、それがインクジェットプリンタで100枚レベルで印刷されるのを待ち、手書きで入った校正に苦手な手書きでコメントを返し、それをやっぱり時間をかけてスキャンしてメール添付で送る…… スケジュールが押したり意見が食い違ったり私の校正の入れ方がまずかったりして校正さんに怒られる…… 私が経験した紙のゲラの校正はこういったものだったが、電子書籍だとこういった手間がまったくない。

タブレットで読むと簡単に「著者の目」を「読者の目」に切り替えることができるのもよかった。読者の目で読んでみると小説としてのアラがたくさん見つかり、そういったところのブラッシュアップも含めて著者校正のサイクルを3,4回繰り返して、あっという間に出版準備ができた。

どれぐらい売れるか未知数なので表紙も無料の範囲で作ろうと思い、イラストも自分で描き、デザインもIllustratorの無料版のようなソフトで作った。Amazon KDPというKindle出版用のプラットフォームで必要な情報を入力して提出、半日ぐらいでもう販売されはじめた。拍子抜けするほど簡単だった。

プロモーション面を全部自力でやらなければいけないこと、書店や図書館の本棚に並ばないのであまり広い読者層には届けられないこと、電子書籍を読む習慣のある人にでないと売れないことなど、紙の本との違いはあるが、原稿をこのままどこにも出せないよりかはずっとずっとよかった。すでに嬉しい反響もいただいているし、売れていく様子がAmazon KDPのダッシュボードでほぼリアルタイムで確認できるので励みになる。

本の内容については以下の記事に書いている。

Kindle小説『80年生まれ、佐藤愛 ―女の人生、ある発達障害者の場合』を出版しました | 宇樹義子公式サイト

電子書籍と読者、そして書き手のこれから

今はまだ電子書籍はシェアも社会的な認知も紙の本に劣るが、このコロナ禍を経て状況は大きく変わっていくだろう。実際に電子書籍はここに来て大きく売り上げを伸ばしているらしい。

コロナ禍のせいで、在庫を抱えること、モノとしての商品のために物理的に人が動くことが、経済的なことだけでなく人の命のいかんに直結するような事態になってしまった。また残念ながら経済全体の低迷により、こうしたリスクを見込んで紙の本を出版しつづけることに耐えられなくなって消えていく出版社や書店も今後たくさん出るだろう。

そんな中で本の姿は大きく電子書籍の側に振れていき、5年10年経ったころにはこの業界の姿は様変わりしているはずだ。

電子書籍やオンデマンド印刷を担う出版社やフリーの集団がボコボコと乱立するかもしれない。というかもしかすると私が仲間と組んでやってもいい。ネット記事の多くの品質が炎上上等の惨憺たる状況であり、紙の本もコストの面で戦々恐々といった中、電子書籍は品質と手軽さ、安全さの面で最もバランスのよいメディアになっていくのかもしれない。

書き手はどんどん自分で電子書籍を出す。読み手はタブレットで電子書籍を読むのが普通になる。そんな出版業界の姿が見えてくるような気がする。

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